生誕100年 名匠・成瀬巳喜男の世界 蓮實重彦・山根貞男のトークショー

『めし』と『浮雲』の上映のあとに、蓮實重彦山根貞男トークショーがはじまった。記憶に残っていることを書いておこう。成瀬巳喜男の古いフィルムは原版こそ残っていたものの、見ることができる状態ではなかったらしい。それをふたりが各方面に働きかけて、成瀬のフィルムをニュープリントとして復活させたという。
成瀬巳喜男のフィルムは、まずスペインのサン・セバスチャン映画祭で上映されることになり、蓮實重彦山根貞男は、一緒にその映画祭に出席したという。成瀬のフィルムが上映されたとき、蓮實は、スペイン語を話せないのにスピーチを頼まれたそうだ。そのスピーチをしたせいか、そのとき映画祭にきていた人たちは蓮實重彦のことを成瀬巳喜男だと思ったらしい。
映画祭の期間中、蓮實が街を歩いていると、「ミキオー」と声をかけられたそうだ。蓮實重彦は、それがうれしかったようで、手を振ったりしていたらしい。山根貞男が、「成瀬巳喜男にまちがわれてどうでしたか」と蓮實に聞いたら、蓮實は、「いやあ、うれしかったですよ」と本当にうれしそうに答えていた。
ほかには、いままで批評家は、成瀬は30年代に低迷していた、といっていたらしいが、実際に見てみたら、じつにすばらしいフィルムだったそうだ。蓮實重彦は、「われわれは、批評家たちにだまされていた」といっていたほどだ。
また、50年代にこれほどコンスタントによい映画を撮り続けていた監督は、世界中を見まわしても、成瀬巳喜男くらいのもので、成瀬に匹敵するのはヒッチコックくらいだろう、ともいっていた。蓮實重彦が、ここまで絶賛するからには、成瀬巳喜男は予想以上にすごい監督のようだ。
最後に、蓮實重彦山根貞男はおすすめとして、『鶴八鶴次郎』『あらくれ』『杏っ子』などをあげていた。もちろん、ほかのフィルムのすばらしいものだそうだ。ぜひ、成瀬巳喜男の映画を見にいこうと思う。


蓮實さんがスペインの映画祭で成瀬に間違われて、アントニオ・バンデラスの横で、 「ミキオー」と呼ばれていたことが嬉しかった、というしょーもない話から始まり、 成瀬がどれだけスンバらしい映画を作っているか、 また逆に、若い人にはそういったことを考えずにニュートラルな視点で成瀬を観てほしい、 と生誕100年に相応しいが無難なコメントばかりだった。
唯一、蓮實重彦の言う、成瀬とヒッチコックの比較は面白かった。 だからこそもうちょっと時間をかけて突っ込んだ話を聴きたい。
蓮實オススメ=「あらくれ」('57)
ヤクザ山根オススメ=「鶴八鶴次郎」('38)、「杏っ子」('58)