第20回東京国際映画祭 『タイペイ・ストーリー』上映前トークショー

映画の上映前に、蓮實重彦トークショーがありました。
今回のトークショーは作品についての言及はなく、個人的にも親しかった楊徳昌との思い出やエピソードの披露といったものでした。
以下、内容を簡単に箇条書きにすると
・蓮實氏は楊徳昌の死を海外からの電子メールで初めて知った。その時、印象深かった楊徳昌の3つの姿を思い出した。一つは97年12月の京都映画祭の際、京都東山で嬉しそうに颯爽と自転車を漕いでいた楊徳昌。2つ目は2001年5月11日にパリのドゴール空港で疲れきった表情で殆ど眠っていたように見えた楊徳昌。3つ目は2002年4月東京のホテル・オークラで、子供が生まれ嬉しそうに落ち着いた姿でベビーカーを押しながらエレベーター降りてきた姿(この時既に『ヤンヤン 夏の想い出』を撮り終えていた)。
・2001年ドゴール空港での遭遇は、楊徳昌カンヌ映画祭の審査員を務めた後で、疲れきった様子だった。蓮實氏が声を掛けると、そばに同じく審査員だった王家衛が側にいたにもかかわらず、楊徳昌は蓮實氏をファースト・クラス・ラウンジに連れて行き、「自分は女性に対し反感は持っていないが、映画祭の審査員である女優については不快に思っている」と吐露した(その年、シャルロット・ゲンズブールなど蓮實氏曰く何故審査員を務めるか理解できない女優数名が審査員であった)。
・2002年ホテル・オークラで会った際、蓮實氏がこれからどこに行くのか尋ねると、神社と答えた。『ヤンヤン 夏の想い出』の撮影中、神社に行き(新しい)奥さんとの間に子供が授かるように祈願したところ、その後すぐ子供ができた。今からその時祈願した神社に生まれた子供を見せに行くのだと言っていた。
・『ヤンヤン 夏の想い出』の後、楊は『Assassination』という映画をレスリー・チャン主演で撮影しようと考えていた。戦前の上海が舞台で、しかし既に現在の上海には当時の姿ではなく、また上海にある映画撮影用の上海を再現したセットも絵はがきのようでイメージと異なり、そこでは撮影できないので、東欧のプラハなどの街で撮りたいと言っていた。
・Eメールで連絡するようになる以前、楊徳昌から送られてくるFAXにはいつもメガネマークの印が押してあった。
・蓮實氏が楊徳昌の自宅に招待された時、楊徳昌の兄夫婦も同席していた(他、妻を同伴していなかった蓮實氏のために楊徳昌台北にいた粉雪まみれ氏も呼んでいた)。兄は日本の通産省にあたる役所の高級官僚で、話をすると映画にとても詳しい人であった。好きな女優を尋ねると兄はステファーヌ・オードランクロード・シャブロルの元妻)の名を挙げた。すると、楊徳昌がそれは誰だ?知らない、と言った。
・1991年の東京映画祭で、大学に勤めていた蓮實氏は人をかき集めて『クーリンチェ少年殺人事件』の上映に行き、集団で拍手喝采し、蓮實氏もブラボーの声をあげた。そして審査員特別賞を受賞した。
・1987年のロカルノ映画祭の際、楊徳昌の美しく着飾った妹を見かけた。そして、91年の東京映画祭では母親にも会った。母親に映画祭のために東京に来たのか尋ねたら、違うと言われた。いけばなの大会が東京であるのでそのために来日したのだと、美しい日本語を交えて話していた。そして『海辺の一日』の中に、いけばなや日本語を話すシーンがあるのだそう。
・『クーリンチェ少年殺人事件』は非常に難しい権利の関係で、上映の機会も無いし、DVD化もされない。こういった状況を何とかしねければいけない。
・蓮實氏が東大総長時代、入試で忙しい時期に楊徳昌からどうしても会いたいと言われ、東大に来てもらった。昔の台湾大学を舞台に撮影したいのだが、既に今の台湾大学は変わってしまっていてロケができないので東大で撮影させてくれ、と頼まれた。そして「蓮實、おまえも出てくれ」と言われた。出演に関しては断ったが、東大での撮影については取り計らった。が結局、東大でロケをしても昔の台湾大学のように撮ることができないとわかり、撮影は行われなかったけれども、映画のエンド・ロールに自分の名前を入れてくれ嬉しかった。
・2003年8月から9月、小津安二郎の催しに出席するよう依頼したが、楊から自分はとても小津について論じることなどできないと固辞された。そこで蓮實氏は、ではその代わりに『Assassination』を早く撮るよう頼むよと言ったところ、楊はレスリー・チャンが亡くなってしまったので撮れないかもしれないと答えた。そしてその後楊は病気になり、そのうち連絡もなくなり、そして楊が亡くなった、と。
おおよそ以上の話の後、かつての盟友・侯孝賢ホウ・シャオシェン)監督の『冬冬の夏休み』に父親役として出演した楊徳昌の登場シーンが短い時間ながら上映されました。

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