蓮實重彦氏 X 渡部直己氏トークセッション 「スポーツ批評宣言あるいは運動の擁護」刊行記念

『スポーツ批評宣言 あるいは運動の擁護』刊行記念の、蓮實重彦渡部直己公開対談を聴きに、三省堂神田本店の離れといった趣の「自遊時間」内、上島珈琲店に赴く。
60席ほどの会場は立ち見も出る大盛況。ま、当然といえば当然の人気だが、大御所の公開対談にしては、やはり会場が狭すぎでは。それに、おそらく厨房からのものだろうが、しばしばマイクでの音声を聞き取りにくくするほどの雑音が会場内に流れたのには呆れた。
もうひとつ文句を言えば、写真を撮るためなら一人だけでいいのに、一番前のいい席を三省堂の社員数名が独占していたのも理解に苦しむ行為。
ま、以上の点は不満ではあったが、1時間半の対談は『スポーツ批評宣言 あるいは運動の擁護』同様、じつに面白いものだった。ということで、以下、主な内容を、だいたいの話の流れに沿って列挙することにする。

・あなた方はなぜそんなに偉そうにしているのか、という批判を受けるが、私たちは偉そうにしているのではなく、実際に偉いのだ。(蓮實)
・いわゆる「惻隠の情」が、今の日本を傷つけている。「惻隠の情」なんてものは、ポピュリズムの成立にしか貢献しない。(蓮實)
・米国のネオコンと呼ばれる人たちを始め、読売巨人、ヤンキースレアル・マドリッド、ACミランチェルシーヴィッセル神戸などの例で分かるように、現実に起こっていることが判断できない、いわゆる動体視力を欠いた人間が世界を動かしている。(蓮實)
・動体視力を持ってない人は、眼に見えない情緒を見る。(渡部)
・先日モナコが、欧州チャンピオンズ・リーグでレアルを破った時に見せた戦う姿勢は、これぞスポーツと言える素晴らしいものだった。(蓮實)
モナコは「大公国」であるが、いわゆる大公国には原則というものがない。以前、王妃グレース・ケリーの下着の色は何色、というどうでもいいようなことが話題になったことがあるが、結局、分からないという結論になった。なぜなら、モナコには原則がないから。(蓮實)
・日本サッカーはトルシエ時代より、明らかに劣っている。(蓮實)
ジーコを責めるのでなく、ジーコを選んだ人の、いま流行りの言葉で言えば、「自己責任」を追及すべき。(蓮實)
トルシエ時代には曲がりなりにも形があったが、ジーコ体制にはなく、初めから終りまでなし崩し状態でずっときている。ジーコ体制は、ぼちぼち我慢の限界にきている。(渡部)
・選手は反乱を起こすべき。オレ、やめた、という選手が出てくるべき。じつは、先日のキャバクラ組も、ジーコに対する反抗心ゆえにああいう行動を起こしたのでは。(蓮實)
・だいたい合宿するなら、まったく自由放任にするか、あるいは、ちょっとやそっとでは抜け出せないところに缶詰にすべき。(蓮實)
ジーコポルトガル語は本当に醜い。(蓮實)
トルシエの通訳は、トルシエになりきっていて本当によかった。それに引き換え、ジーコの通訳の顔が見えてこない。(蓮實)
・具体的に日本代表を良くするには、左右から駆け上がって攻める選手がほしい。中田浩二に期待してたが、怪我でダメ。三都主がいては強くならない。今は石川に期待したい。(渡部)
・男子の日本代表を応援したことはないが、今、女子の代表チームは応援している。とくに川上選手がいい。彼女のちょん髷とポニーテールでプレーする姿にはしびれる。(蓮實)
女子サッカーは全員が「伊賀FCくノ一」とか、すごい名前のチームに所属していて面白い。なかなかの人材を集めているし、ちゃんと戦う集団になっている。しかし、北朝鮮には勝てないだろう。(蓮實)
・「希望」という言葉を、女子サッカーを見ていて、久しぶりに思い出した。男子A代表に希望はまったく感じない。(蓮實)
ソフトボール日本代表チームも、怖そうな人が監督をしていて、何かあるんじゃないかという期待感をつねに抱かせる。(蓮實)
・女子のスポーツは、どうしても男子に見劣りするので物足りなく感じるが、ソフトボールに関してはそれがない。実際、松井だって日本代表選手の投球を打てないわけだし。(渡部)
・サッカー男子オリンピック代表は、詰めが甘い。トゥーリオ以外、今の雰囲気を変えられそうな選手はいない。攻め上がるトゥーリオに対し、攻撃は俺達に任せろ、と言い切れるだけのフォワードもいない。(蓮實)
・だいたい、全体が不良という環境でない限り、不良少年は孤立するもの。だから、不良少年の大久保は、彼のことは好きだが、実際のところ、うまく機能してない。(蓮實)
・日本のフォワードは、ゴールより味方バックスの方ばかり見ている。柳沢に6年間期待したが、もう無理。(渡部)
・日本代表の驚くようなゴールを滅多に見ない。基本的に綺麗過ぎるゴールはダメ。(蓮實)
・スペインリーグなど、サッカーのリーグ戦を全部見たら身が持たない。(蓮實)
サビオラが好き。マケレレを外してベッカムを獲るなんて考えられない。(渡部)
赤ゴジラのような選手が出てくる限り、スポーツは健全である。(渡部)
・しかし、赤ゴジラの活躍にもかかわらず、広島は観客が入らない。つまり、少し前の小学生へのアンケートで、10人に6人がサッカー選手になりたいという回答。それに引き換え、野球選手志望の生徒は10人に1人。淋しいことだが、野球の時代はすでに終わっている。(蓮實)
・米国でも野球人気は翳っていて、オールスターの視聴率も落ちている。(蓮實)
・ジャーナリズムが野球を支えるものだが、日本ではジャーナリズムが野球を生かす・殺すのレベルになっていない。赤ゴジラが昔どういう選手だったのかすら、伝わってこない。(蓮實)
少子化が現在の日本の一番の大問題。そこを政治家が分かっていない。これまた、動体視力の欠如。改革なんて言ってる前に、どうしたら安心して子供をつくれる環境になるか考えるべき。(蓮實)
・巨人戦のテレビ中継をビール片手に観戦する親父の情けない姿を見ると、そんなふうになりたくないので、とても子供つくる気にはなれない。だから、日本社会を良くしようと思ったら、日テレの巨人戦中継は即刻やめるべき。(蓮實)
・スポーツ観戦をして、もたらされた弾みを、うまく吸収する社会でないといけない。(渡部)
・メジャーは、両松井のためにあるのではない。日本のジャーナリズムは、ちゃんと大事な部分を報道せよ。(蓮實)
・さすがニューヨーク・タイムスは、昨年のプレーオフでのヤンキースとレッド・ソックスとの歴史的乱闘騒ぎで、一番の見せ場となった、ドン・ジマーマルチネスにぶん投げられて倒れる時のその様を、5通りくらい表現している。(蓮實)
・日本の将来がどうなっても、自分には関心がない。(蓮實)
・蓮實さんのようにフランス語も英語も堪能でないし、自分は日本にしか住めないので、日本の将来は、やはり気になる。(渡部)
・神戸はもともとイルハンレベルの選手を獲得する程度の都市。(蓮實)
イルハンよりニハトの方がはるかにいい。(渡部)
イルハンはヨーロッパに帰った方が日本のためになる。イルハンを空港で待ち構えるカメラマンがいるなんて、信じられない。(蓮實)
・カカがいい。(渡部)
・今年の岩隈は素晴らしい。(蓮實)
・杉内がいい。(渡部)
・本来、既知のものが未知の表情を浮かべる時に感動が生まれる。(渡部)
・選手が伸びる過程をいいコーチは楽しむ。しかし、我々の嫌いな森とか野村とかは嫉妬する。(渡部)
・日本野球とアメリカ野球の最大の違いは、アメリカの投手の膝に泥がついてないこと。日本選手も身体が大きくなってきたのだから、早く大きな身体に見合った投げ方を習得すべき。(蓮實)
・アウェーでは守りに徹すべきといった考え方が、いまだに常識になっている日本は可笑しい。アウェーではめちゃくちゃ攻めるべき。(蓮實)

てな感じだったが、今回もっとも印象に残ったのは、動体視力が欠如した人間が世界を動かしているという分析。日本のために巨人戦中継をやめろ、という話も面白かった。