桃まつり presents すき 壱のすき 『the place named』

もちろん、完璧な出来ではありません。しかし、随所に「映画」が生々しく息づいており、夜のトンネルから電車が出てくショットにはすっかり魅せられてしまいました。――また、蒲団に寝るショットの苦しさにくらべて、鴨居に吊したシャツを見せる自室のロングショットはみごとなものでした。このあたりから、この人は「撮れる人」だという確信がたかまり、鈍い興奮を覚えました。稽古場も、そこでの人物配置やそれぞれの姿勢や顔の表情、そして台詞のイントネーションもよい。おしなべて、それぞれの画面の光線の処理が優れており、あたりの空気感が伝わってくる。――あれこれ不満ものべましたが、思いがけず新しい映画作家の誕生に興奮していることが伝わればと願っています。私の期待など何ほどのものでもありませんが、やはり期待させていただきます。
※個人的な書簡として書かれたものより抜粋