蓮實重彦とことん日本映画を語るVOL.9

青山ブックセンターの再開を受けて本日再開された蓮實重彦の公開講義、数えて今回は9回目の「とことん日本映画を語る」を聴講する。
会場は相変わらずの大入り満員。今回から有料となったにもかかわらず、またしても蓮實ファンが多数押し寄せた、ということなのだろうが、ま、何はさて措き、今日の講義が新生ABCの門出を飾るに相応しい盛り上がりを見せたことは、たいへん喜ばしいことである。
今日の講義は、「『切ること』、時代劇における対決の構図」と題され、先日開催された第4回京都映画祭の話題から始まったが、講義での蓮實氏の主な発言を、例によって書き留めておくことにする。

・今年の京都映画祭(9月19〜26日)で、日独合作の『武士道』(1926年、監督:ハインツ・カール・ハイラント&賀古残夢)という奇妙で面白い映画を発見した。
伊藤大輔監督の『幕末剣史 長恨』(1926年)は、残念ながら断片のみしか残ってない(当然市販ビデオもない)が、世界最高傑作のひとつ。ちなみにこの作品は、大河内傳次郎が伊藤監督と初めて組んだ作品。
・山内鉄也監督の『忍者狩り』(1964年)も面白い映画。
・誰が強いといって、刀を使って一番強いという印象を受けるのは近衛十四郎。リアリズムを持って一気に相手を倒すそのスピードが他を圧している。
・京都映画祭、何かが足りないと思っていたら、夢の中で、女の殺陣がない、ということに気付いた。ちなみに近年、蓮實氏は夢見が悪い状態が続いているとのこと。
・女の殺陣で代表的なのは、藤純子の『緋牡丹博徒』。
・フランス版の溝口健二作品のDVDの特典映像に収録するインタビューを、来日中のペドロ・コスタ監督から突然受け、「溝口はエロだ」と語る。何でも蓮實氏は、10代のとき生まれて初めて見た溝口作品、小暮三千代が裸になる『雪夫人絵図』(1950年)のエロい内容に強い印象を受けたとのこと。
・インタビューで、溝口がチャンバラがうまいということを語り忘れる。『名刀美女丸』(1945年)で、溝口は最高のチャンバラを山田五十鈴で撮っている。普通、殺陣は、役者が疲れるのでワンシーンワンショットでは撮れないものだが、溝口は見事に撮っている。女性の活劇を溝口が撮ったのは意外と知られていない。
・溝口のフランス版DVDは、特典映像にジャック・ドワイヨンなどのインタビューもあってお買い得。
・溝口作品には、部分の表現でうまく全体を表す良さがある。
・溝口作品では、船が重要な役割を果たしている。
・溝口作品では、親密な男女関係を描く際、女性の方が位が上という場合が多い。
田中徳三監督の『濡れ髪牡丹』(1961年、大映京都作品)は、溝口の簡素な殺陣とは違ってサービス満点で、女性の立回りとしては一番面白い作品。
田中徳三監督の『疵千両』(1960年)の長谷川一夫の立ち回りも良い。必見。
・胡金銓(キン・フー)監督の『侠女』(1969年)の竹林での立回りも素晴らしい。
タランティーノ監督の『キルビル』の雪の庭での決闘シーンは、家屋の障子が赤かったり、戦う女の衣装が白かったり、雪の意味がない。日本人のスタッフもいたはずなのに理解不能
山中貞雄監督の『河内山宗俊』(1936年)の雪の降らせ方は世界一美しい。
・雪の降らせ方としては、1950年代の大映作品が世界一上手かった。
田中徳三監督の『手討』(1963年、大映京都作品)は、ほんの数秒のシーンなのに、雪の降らせ方が良い。『濡れ髪牡丹』も雪のシーンは良い。
中島貞夫監督は、主演の若山富三郎と相談し、殺陣は1分以上続けられないということで、『日本暗殺秘録』(1969年)の桜田門外の変のシーンをワンシーンワンショットにしなかった。
・霧が効果的な、溝口監督の『山椒大夫』(1954年)の母と安寿・厨子王の素晴らしい別れのシーンなどを見ていると、溝口が活劇を撮れるのに撮らなかったということがよく分かる。
・『近松物語』(1954年)の、香川京子の船で死のうとするシーンは、いわゆるインテンシティのあるシーン。
・現在、自分には夢が二つあって、一つは溝口に生き返ってもらって活劇を撮ってもらうこと。もう一つは、しかるべき監督に、浅野忠信主演で、桜田門外の変のシーンを、3分間ほどのワンシーンワンショットで撮ってもらうこと。もちろん、できれば中島貞夫監督がいい。
池広一夫監督の『山中七里』(1962年)の、活劇の舞台となっている家が崩れるシーンが良い。
山下耕作監督の『関の弥太っぺ』(1963年)の中村錦之助の殺陣が良い。
・すべてオープンセットで撮った内田吐夢監督の『宮本武蔵―― 一乗寺の決闘』(1964年)の朝の決闘シーンは、実際は夕方5時から6時までの間だけ撮影し、完成に3週間かかった。

以上。自分としては、ビデオで部分上映された山中貞雄の『河内山宗俊』の雪のシーンに何より感動した。

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